空冷VWにはタイプ1(ビートル)、タイプ2(ワーゲンバス)、タイプ3、カルマンギアなどが有名ですが、その他にもいくつかのモデルが存在します。
また、シンプルな構造から、さまざまなキットカーやレプリカのベース車としても使われています。
そんな少しマニアックな空冷VWモデルたちをご紹介します。
タイプ4(Type4)
タイプ3より一回り大きいボディを持つ第4世代のワーゲンモデルとして、タイプ4は1968年にデビューしました。
タイプ4のデビュー時は「VW411」という名称でした。
タイプ4に搭載された1700ccのエンジンはパワフルであったため、ポルシェ914(通称ワーゲンポルシェ)にも搭載されました。
ボディタイプはファストバック(2ドアと4ドアのモデルあり)と2ドアワゴン(バリアント)の計3種類。
ヘッドライトが楕円形の形をしており、なかなか斬新なフロントフェイスをしています。
4ドアモデルの登場は、これまでの2ドアモデルのみであった乗用タイプの空冷VWにとっては、利便性が増した画期的なモデルでした。
1973年には排気量が1800cc、フロントデザインは丸目4灯に変わり、モデル名も「412」に変更されます。
しかし販売台数はさほど伸びず、1974年に総生産台数367,728台をもって、タイプ4は生産終了となりました。
タイプ4の生産終了後、その意志はパサート(水冷)に引き継がれます。
タイプ4/411/412/ファストバック/バリアント/2ドア/4ドア
タイプ181(Type181)
タイプ181はどことなく軍用車を彷彿させるモデルで、通称「スイング(スウィング)」と呼ばれています。
それもそのはず、タイプ181は小型軍用車輌として作られたもので、タイプ1をベースとしているものの、第二次世界大戦中にドイツ軍で使用されていた「キューベルワーゲン」のコンセプトをもとに改良された車です。
1969年から1983年にかけて、西ドイツをはじめメキシコでも製造されました(民間用の販売は1980年で終了)。
タイプ181は悪路を走ることを想定した作りになっており、外観もジープのような簡素さも相まって、明るいカラーに塗られたタイプ181は南の島や暖かなリゾート地で人気があるようです。
バハバグ(Baja Bug)
バハバグはタイプ1(ビートル)をベースにキットを用いられてカスタムされたオフロードカーです。
簡易的な構造をもつ空冷ワーゲンは、さまざまなキットによるカスタムのベースカーに選ばれ、アメリカを中心に1960年代後半から大人のホビーとして楽しまれてきました。
その代表的なカスタムキットのひとつが、バハバグキットです。
フロントとリアのフェンダーは短くカットされ、ヘッドライトはボンネットのフロント中央側に、リアエンジンフードも短いものに取り替えられ、エンジンは丸出し、そして車高を上げて太いタイヤを履かせる、というのがバハバグ仕様のセオリーです。
もともと愛らしいマスクのタイプ1ですが、バハバグ仕様にすることで、更にかわいくコミカルで、そしてどこかやんちゃなスタイルに様変わりします。
そんなバハバグは世界中で人気があり、かつては日本の模型メーカーである田宮模型からも「ワーゲンオフローダー」という名称でラジコンカーが発売され、大ヒットしました。
基本的には高年式のビートルを使用してカスタムするバハバグですが、日本でもバハバグ仕様にカスタムされたビートルを中古市場で見かけることがあります。
デューンバギー(Dune Buggy)
バハバグとはまた一味違い、砂漠を走るバギー仕様にカスタムされたキットカーがデューンバギーです。
1960年代にカリフォルニアのサーファーたちのライフスタイルから生まれた車で、カスタムビルダーのブルース・メイヤーにより「メイヤーズ・マンクス」として発売されたのが最初と言われており、それが通称「デューンバギー」と呼ばれるようになりました。
デューンバギーもバハバグ同様とても人気があり、田宮模型からプラモデルやラジコンカーが発売されました。
また、乗り物好きで有名な名優スティーブ・マックイーンも、当時デューンバギーを走らせて楽しんでいたようで、デューンバギーを乗りまわす写真が残っています。
デューンバギーはバハバグ以上に公道で走るには勇気のあるスタイルをもつ車なので、街なかで見かけることは滅多にありませんが、カリフォルニアやハワイなど温暖なリゾート都市ではいまでもたまに見かけることがあるようです。
日本でも、ものすごく頑張って探せば見つかるかもしれません。
タイプ147(Type147)
タイプ147は通称「フリードリン」とも呼ばれている車で、西ドイツのコーチビルダーの ウェストファリア社(Westfalia)により造られた郵便配達用小型バンです。
その形はタイプ3のフロントにタイプ2のリアをくっつけ、小さくしたような形をしており、1964年から1971年にかけて作られました。
タイプ147の生産台数はわずか1万台程度なので、日本で見かけることはほぼありませんが、荷物運搬用ではなく乗用タイプにできたなら、今の時代でも人気が出そうな良い形をした車です。
ヴァナゴン(Vanagon)...当初の名称はカラベル(Caravelle )
タイプ2の後継モデルとして1979年に登場しれたのがカラベルです。
発売当初はヨーロッパ用につけられた名称のカラベルと呼ばれていましたが、商標の絡みで1990年に北米での名称「ヴァナゴン」(バンとワゴンが足されて作られた造語)に名称変更されました。
現在ではカラベルという名称よりも、ヴァナゴンという呼び名が一般的に通っています。
販売当初の初期のT3ヴァナゴンは、1600ccと2000ccの2種類の空冷エンジンを搭載していましたが、1991年には水冷エンジンへと変わってしまいます。
そのため、空冷エンジン時代はわずか2年程度でした。
ヴァナゴンは直線的なデザインになったものの、レイトバスを彷彿させる丸目2灯のフロントフェイスが特徴的です。
しかし、輸出先により丸目4灯や角目2灯・4灯など、異なるフェイスのモデルがあるなど、ヴァナゴンは名称やエンジンの仕様などを含め、なかなか複雑なモデルでもあります(笑)。
ヘブミューラー(Hebmuller)
タイプ1(ビートル)にはセダンモデルの他にカブリオレがあります。
カブリオレモデルは、1949年から作り始められました。
カブリオレのボディはカルマン社がボデイの架装を施し、セダンと同じ5人乗りで作っていました。
しかし、実はこの5人乗りカブリオレとは異なる、2シーターのタイプ1カブリオレも作られていました。
それがヘブミューラー社の作る2シーターカブリオレで、現在では社名そのものから通称「ヘブミューラー」と呼ばれているものです。
しかしこのヘブミューラー社、2シータカブリオレを生産を開始して4年後の1953年に、工場が火事にに見舞われてしまいます。
そのため、ヘブミューラー社の作る2シーターカブリオレは、生産台数わずか750台で生産終了となってしまいました。
今となってはとても希少な2シーターカブリオレとして、ヘブミューラー知る人ぞ知るモデルなのです。
ロメッシュ(Rometsch)
1950年代に、西ドイツのコーチビルダー「ロメッシュ」によって、タイプ1のプラットフォームを利用した2台の車が作られました。
それがが「ビースコウ(Beeskow)」と「ローレンス(Lawrence)」です。
最初に作られたのがビースコウです。
ビースコウはその形状から通称「バナナカー」とも呼ばれており、1951年から1956年まで作られました。
1台作り上げるのにおよそ1000時間以上の時間を費やし、ボディをアルミ叩き出しで作っていくといった、非常に手間を掛けて作られました。
プラットフォームはフォルクスワーゲンとしながらも、その他の高級なドイツ車から多くのパーツを流用しており、非常に高級な車として仕上げてありました。
そのため、ビースコウの価格はポルシェ356の価格とさほど変わらないほどでした。
クーペとカブリオレの2タイプあったビースコウは、約175台ほど製造され、その多くはカブリオレモデルでした。
ビースコウの次にロメッシュによって作られたのが「ローレンス」です。
ローレンスは1957年に発表され、1961年まで作られました。
どこかカルマンギアにも通じるような、スポーツカー然としたデザインをしています。
パッド入りのダッシュボードはドイツ車には珍しく、当時のアメリカ車を意識しているようにも思えます。
ローレンスにもビースコウ同様クーペとコンバーチブルが用意されました。
ローレンスを1台制作するのにビースコウ以上の約1200時間がかかったと言われていますから、よほど手間ひまかけて作られたことがわかりますね。
ポルシェのレプリカ
タイプ1の生みの親はフェルディナント・ポルシェ博士であることから、初期のVWとポルシェはよく似た構造をしています。
その構造を活かし、タイプ1をベースに356や550、904といったポルシェのレプリカモデルが作られました。
レプリカを製造するメーカーにより、精度はまちまちですが、往年のポルシェの名車に安価で乗れることは、なかなかの魅力とも言えるでしょう。
そんなレプリカモデルも、近年の旧車ブームにより高騰しており、中古といえどもはや手軽に手を出せる価格ではなくなってしまいましたが...。
ブラジルの空冷ワーゲン
ドイツのフォルクスワーゲン社から正式にライセンス生産を請けていたフォルクスワーゲン・ド・ブラジルから、実は以外にもオリジナルの空冷VWのモデルが登場しています。
中でも代表的なのが「ブラジリア」です。
ブラジリアは、60年代から70年代に描け作られ、セダンやタイプ4によく似たバリアントモデルがあります。
また、1972年から1976年まで作られたSP2(サンパウロ)というモデルもあります。
なかなかスペーシーで魅力的なデザインですが、なぜかヘッドライトがブラジリアと共用のタイプ4後期スタイル(笑)。
無理やり作るところに、ブラジル人のたくましさを感じます。
サンパウロの生産台数は10,205台です。
フォルクスワーゲン・ド・ブラジルのモデルではありませんが、空冷ワーゲンのエンジンを使って作られたピューマというメーカーのGTEという車もブラジルにはあります。
これはなかなかかっこよく、フェラーリ275GTBやディノ、ロータス・ヨーロッパを小型化したような、スポーツカーのセオリーに則った良いデザインをした車です。
ボディはおそらくFRP製で、クーペとオープンのモデルがあります。
特に初期型は相当かっこいいのですが、エンジンは空冷ワーゲンのエンジンですから、きっと遅いでしょう...。
様々なキットカー
先に紹介したデューンバギーもキットカーの1つですが、空冷VWをベースに制作できるキットカーがありました。
その他の代表的なVWのキットカーと言えば、映画キャノンボールにも登場した「スターリン(Sterling Nova)」があります。
スターリンはベースがビートルとは思えないほどの超未来的スーパーカーの様相をしています。
その他にも、マンタやレーザー917(ポルシェ917に似ている)、BerryMini-T4(T型フォードみたい)、 MPラッフェルのMG-TDレプリカ、メルセデスSSK(ただし小さい)など、探すとたくさん見つかります。