空冷ワーゲンの代表モデルでもあるタイプ1(Type1)、通称ビートルについてご紹介します。
タイプ1の歴史は古く、1938年に量産型のプロトタイプが完成し、1941年から少量ながら量産化され販売が開始されました。
タイプ1の生みの親はポルシェの創始者である、フェルディナント・ポルシェ博士です。
販売開始以降、年代による細かなモデルチェンジが逐次行われ、その外観の特徴から、日本においては、スプリット(1941~53)、オーバル(1953~57)、6ボルト(1958~66)、ロクナナ(1967)、アイロンテール(1968~72)、ビッグテール(1973~78)などと呼ばれ分類されています。
また、タイプ1にはセダンとカブリオレ(コンバーチブル)といったクローズドとオープンの2つのボディ形状があり、後期にはサスペンションの形状の異なるフロント周りのデザインが異なるモデルも存在します。
あまりビートルについて詳しくない方からすると、一見同じ様にも見えるビートルですが、実は各年式ごとにさまざまな違いがあります。
空冷ワーゲンに詳しいマニアになると、こうした年代ごとに異なるボディ形状の違いから、おおよその年式が判別できるようになるのと同時に、更に深いワーゲンの魅力にハマっていくのです。
タイプ1のスペック
販売期間:1941年~2003年
乗車定員:5名
ボディタイプ:2ドア(セダン/カブリオレ)
駆動方式:RR
エンジン:空冷水平対向4気筒OHV
変速機:4速MT/3速セミAT(スポルトマチック)
ホイールベース:2,400-2420mm
全長:4,070-4,140mm
全幅:1,540-1,585mm
全高:1,500mm
車両重量:730-930kg
年式による違い
スプリット
最も古い時代のタイプ1は、リアウインドウが2つに分かれた形をしているのが特徴的です。
そのためこの時代のビートルは通称「スプリット」と呼ばれています。
スプリットは1941年から1953年に作られた超初期のモデルになり、現存するものの台数はかなり少ないです。
そのため、大変貴重なモデルということで、世界中でもかなりの高額で取り引きがされています。
スプリット時代のテールランプは丸型でとても小さいもので、ブレーキランプの機能はなく尾灯の役割をするのみです(画像のスプリットはハートテールに変更されている)。
またテールランプにウインカー機能もなく、Bピラーに「セマフォー」と呼ばれる腕木式の方向指示器が備えられていました。
スプリットくらい旧いビートルになると、実物はなんとも言えないオーラを発しており、ビートルの長い歴史(というか、自動車の歴史!)を感じさせるとともに、まさに「ビートルの王様」だと感じさせる貫禄があります。
オーバル
リアのスプリットウィンドウのセンター部分が取り除かれ、楕円形(オーバル)のリアウインドウになったため、通称「オーバル」と呼ばれています。
これにより後方の視認性は少しだけアップしましたが、今の車と比べるとまだまだ小さなリアウインドウサイズと言えます。
オーバルは1953年から1957年の間に作られました。
オーバル時代になると、テールランプは玉子形になり少しだけ大きくなります。
またウインカー上部にハート型のブレーキランプが装備されたため、初期オーバルは「ハートテール」と呼ばれたりもしています。
オーバル後期になるとハートテールは視認性の悪さから廃止され、玉子形のテールランプのなかに、ブレーキ灯とウインカーも備わるようになります。
オーバルもとても古いモデルなだけに現存する台数はとても少なく、ビンテージワーゲンマニアの間でもとても人気があります。
オーバル時代から、オープンボディのカブリオレも登場します。
6ボルト
1958年以降のタイプ1は、リアウインドウがさらに大きくなり、四角いスクエアウインドウとなります。
この時代はまだ電装系を担うバッテリーの電圧が6Vであるため、マニアの間では「6ボルト」と呼ばれています。
この「6ボルトと呼ばれるタイプ1は、1958年から~1966年までのモデルを指します。
これまで小さな玉子型だったテールランプは、1962年から少し大きめの楕円形となます。
1966年式のタイプ1は、それ以降のタイプ1と比べ、フロントやリアのフェンダーの形状、ボンネットや各窓の大きさなどが小さいため、全体的にクラシカルな印象を与えます。
そのため、ビンテージな雰囲気が好みというワーゲンオーナーは、6ボルト時代までのビートルを好む傾向にあるようです。
ロクナナ
「ロクナナ」は、まさに1967年のみに作られたモデルのことで、ある意味マニア好みの年式と言えます。
と言うのも、「ロクナナ」は、それ以前の6ボルト時代とそれ以降のプレスバンパーモデルとの過渡期にあるモデルであるため、仕様が非常にユニークなモデルだからです。
「ロクナナ」の特徴としては、電装系の12V化や垂直に立ったヘッドライトに加え、ロクナナのみでしか使用されていないダブルバンパーの形状などがあります。
また、ホイールの穴の数も5つから4つに変わる年で、ロクナナには生産時期におり5穴タイプと4穴タイプとがあります。
アイロンテール
1968年からはアメリカの保安基準に合わせてバンパーが四角い大きなものに変更されます。
そして、テールランプもこれまでの楕円タイプから、アイロンのような形のした少し大ぶりなものへと変更されます。
そのため、この時期のタイプ1のことを「アイロンテール」と呼んでいます。
「アイロンテール」は1968年から1972年までの4年間製造されました。
ビッグテール
1973年からはアイロンテールから更に大きな楕円形のテールランプへと変更されました。
そのため、これ以降のタイプ1は「ビッグテール」と呼ばれています。
以降、西ドイツで生産されるタイプ1は、1978年に製造が終了されます。
しかしその頃は、ドイツ以外のメキシコやブラジルでもタイプ1は製造されていました。
ブラジルでは1996年まで、そしてメキシコでは2003年まで製造されるなど、本国ドイツで生産中止になってからも、25年も他国で作り続けられました。
1941年か2003年まで、トータルで62年間も作り続けられたタイプ1は、世界で最も長く作り続けられた車になります。
そしてこの記録を抜く車は、もう2度と現れないことでしょう。
サスペンションによる異なる2つのタイプ1
トーションバー式モデル
タイプ1のフロントサスペンションは、横置きのトーションバー式サスペンションで、ポルシェと同じ上下2段式のトレーリングアーム構造をしています。
しかし、このポルシェ式のトレーリングアーム構造は切れ角に制限があるため、最小回転半径やや大きく、取り回しに少し難があるとされています。
ただしこのワーゲンのトーションバーは本来なら一本の棒鋼として仕上げられるものが、ごく細長い板バネを多数束ねる独特のトーションリーフを用いており、これをチューブ内に収めねじり抗力を持たせるといった、いわばトーションバータイプのバネを作り出すユニークな構造をしています。
マクファーソンストラット式モデル
トーションバー式+トレーリングアームのタイヤの切れ角に対する課題を解消するために設計されたのが、マクファーソンストラット式サスペンションです。
これは1971年に登場した1302という派生モデル(通称マルニ)に採用され、その後の1973年にフロントガラスがカーブした1303(通称マルサン)へと引き継がれます(トーションバーモデルも、この間、並行して製造は続けられている)。
1302や1303に導入されたマクファーソンストラット式のフロントサスペンションにより、トランクの容量は大きくなり、回転半径の縮小による取り回しの改善が行われましたが、ストラット式サスペンション導入によりフロント周りのデザイン変更を余儀なくされ、これまでのタイプ1の顔つきが少し変わってしまいました。
そして、このデザインがあまりにも不人気であったため、ストラット式サスペンションの導入は1974年の1303で終わり、以降生産終了までトーションバーモデルが生産され続けます。
ビートルこぼれ話
世界中で愛されたフォルクスワーゲンタイプ1は、各国での愛称も様々です。
ここ日本でタイプ1は、「ビートル」や「かぶとむし」と呼ばれたりしますが、ドイツ本国では「ケーファー(Kafer)」と呼ばれていたり、アメリカでは「バグ」と呼ばれていたり、ブラジルでは「フスカ」と呼ばれていたりと様々です。
ちなみに日本では、メキシコ製ビートルのことをドイツ製と区別するために「メキビー」と呼んだりもします。
また、ビートルをはじめとした空冷ワーゲン乗りの人たちは、自分の愛車にそれぞれ名前をつけている人が多いようです。
車でありながらも、どこかペットだったり家族の一員と捉えている人が、少なくないみたいですね。
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