カルマンギア(Karmann Ghia)について

カルマンギアはタイプ1のコンポーネンツをベースに、イタリアのカロッツェリア・ギア社がデザインを、ドイツのコーチビルダー(元は馬車を作る会社)であるカルマン社がボディの製造を担い、3社の共同で制作された車です。

カルマンギアという車名は、カルマン社とカロッツェリア・ギア社からそれぞれを取って名付けられたもので、ロゴもまさに両社のロゴが組み合わさった形でデザインされています。

カルマンギアがドイツ車でありながらもどこかイタリア車のような雰囲気を醸しているのは、デザインをイタリアのカロッツェリア・ギア社が担っているからです。

カルマンギアはタイプ1と比べ、より豪華な仕様の車として開発されたため、クロームパーツも随所に用いたれており、全体的に華やかな仕上がりになっています。

カルマンギアは流れるような美しいデザインを持つため、早いスポーツカーのように見えますが、性能はタイプ1の非力なエンジンを積んでいたため、ポルシェなどと比べるとパワー的にはかなり劣ります。

価格はタイプ1と比べるとかなり高めではあったものの、それでもポルシェと比べるとかなり安く、そういった理由などから「プアマンズポルシェ(貧乏人のポルシェ)」などと揶揄されたりもしたようです。

実はカルマンギアには、タイプ1をモチーフにしたタイプ14と、タイプ3をモチーフにしたタイプ34の2種類があります。

カルマンギア タイプ14

エアインテークが小さかった1950年代の初期のカルマンギア・カブリオレ。ヘッドライトの位置も少し低いため、フェンダー先端上部に丸みがある

最初に登場したカルマンギアが、タイプ1(ビートル)をベースにデザインされたタイプ14です。

タイプ14は1955年にデビューし、1973年まで生産されました。

タイプ14のカルマンギアには、クローズドボディのクーペモデルとオープンボディのカブリオレの2タイプがあります。

デビューから1959年モデルまでの1950年代のモデルは、フロントのエアーベントグリルが小さめで、またテールランプも四角い小さいものでした。

またヘッドライトの位置も少し低めであるため、この時代のカルマンギアは、通称「ローライト」とか「角テール」などと呼ばれます。

初期(1950年代)のカルマンギアのテールランプは小さくて四角いため、「角テール」と呼ばれている

1960年モデルからは、ヘッドライトの位置が少し高くなり、エアーベントグリルも大きくなり、テールランプも三日月型になります。

ヘッドライトの位置が高くなったことで、フロントフェンダーのLINEが、50年代のカルマンギアよりも少し直線的となります。

エアインテークが大きくなり、ヘッドライトの位置が少し上がった1960年代のカルマンギア・クーペ。

4輪ドラムブレーキだったものが、1967年モデルから、フロントのみディスクブレーキとなり制動力がアップします。

1968年モデルからは、これまで4速マニュアルミッションのみであった変速ギアに、セミオートマタイプのスポルトマチック仕様が追加されます。

テールランプが三日月型なのは1969年モデルまでで、この時代のカルマンギアは通称「三日月テール」と呼ばれています。

1960年代からカルマンギアのテールレンズは少し大型化し「三日月テール」に

1970年になるとバンパーはまだ細いものの、丸い形状のフロントウインカーが横長で大型の四角形に、テールレンズも三日月型ではなく少し大き目の形に変更されます。

1970年代から前後ウィンカーが拡大。フロントウインカーの形状は角型に

更に1972年になると、アメリカの安全基準に基づき、前後のウインカーはさらに大きくなり、バンパーも大型のプレスバンパーが備わります。

1972年からリアウインカーはさらに拡大し、前後バンパーも大型のプレスバンパーに

排気量は、デビュー当時は1200ccで、1965年に1300cc、1966年に1500cc(電装も6Vから12Vへ変更)、1969年には1600ccと、徐々に大きくなりパワーアップしていきました。

タイプ14はトータルで444,300台生産されました。

タイプ14のスペック

販売期間:1955年~1973年
乗車定員:2+2
ボディタイプ:2ドア(クーペ/カブリオレ)
排気量:1200cc~1600cc
駆動方式:RR
エンジン:空冷水平対向4気筒OHV
変速機:4速MT/3速セミAT(スポルトマチック)
ホイールベース:2,400mm
全長:4,140mm
全幅:1,634mm
全高:1,330mm
車両重量:810kg

カルマンギア タイプ34

もう1つのカルマンギアであるタイプ34は、タイプ3をベースにデザインされたもので、1962年にデビューしました。

タイプ34はベースがタイプ3ということで、タイプ14と比べると全体的に四角く、ガラスの面積も大きのが特徴です。

タイプ34はタイプ14よりも更に豪華仕様で、1500ccのパワーのあるエンジンや、フォグランプを備えたフロントデザイン、大容量トランクを備えています。

タイプ34は、当時コンパクトカー路線が注目されていたアメリカ市場を意識してデザインされたようで、どこかシボレー・コルベアなどとも似ている雰囲気があります。

どこかアメリカ車にも通じる趣のデザインをみせるタイプ34カルマンギア

しかし、タイプ34の販売はさほど伸びず、タイプ14よりも早い1969年に、わずか7年間という短さで生産終了してしまいました。

タイプ34はクーペモデルのみで、総生産台数は4,2505台。今となっては貴重なモデルと言えるでしょう。

カルマンギアこぼればなし

実はカルマンギアには、タイプ14とタイプ34の他に、もう1つモデルが存在します。

それがカルマンギアTCです(TCはツーリングクーペの略)。

カルマンギアTCは、ドイツVWがリリースしたモデルではなく、ブラジルVWが作ったモデルで正式にはタイプ145になります。

タイプ145はクーペモデルのみで、イタリアのイタルデザイン社のジョルジェット・ジウジアーロによってデザインされました。

その姿はタイプ14とタイプ34の中間のようなスタイルをしています。

ベースはタイプ3で、1970年から1976年までのあいだ、合計18,119台が生産されました。

タイプ145は南米でのみ販売されたため、当時の日本では見かけることはありませんでしたが、近年では極稀に中古車市場で見かけることもあります。

見る人にとってはとても魅力的なモデルにも見えますが(とても70年代らしいデザイン)、非常に錆びやすいとも言われていたり、パーツの入手具合のことも考えると、初心者が手を出す車ではないように思います...。

タイプ14/タイプ34/クーペ/カブリオレ/TC/タイプ145

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